、志向、希望、前途がただ一筆で棒引されてしまった。閑人のお布《ふ》れが行届《ゆきとど》いて、小D、王※[#「髟/胡」、175−12]などに話の種を呉れたのは、やっぱり今度の事であった。
 彼はこのような所在なさを感じたことは今まで無いように覚えた。彼は自分の辮子を環《わが》ねたことに[#「に」は底本では欠落]ついて無意味に感じたらしく、侮蔑をしたくなって復讎の考《かんがえ》から、立ちどころに辮子を解きおろそうとしたが、それもまた遂にそのままにしておいた。彼は夜になって遊びに出掛け、二杯の酒を借りて肚の中に飲みおろすと、だんだん元気がついて来て、思想の中に白鉢巻、白兜のカケラが出現した。
 ある日のことであった。彼は常例に依り夜更けまでうろつき廻って、酒屋が戸締をする頃になってようやく土穀祠《おいなりさま》に帰って来た。
「パン、パン」
 彼はたちまち一種異様な音声をきいたが爆竹では無かった。一たい彼は賑やかな事が好きで、下らぬことに手出しをしたがる質《たち》だから、すぐに暗《やみ》の中を探って行《ゆ》くと、前の方にいささか足音がするようであった。彼は聴耳《ききみみ》立てていると、いきな
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