ウンが仄暗《ほのくら》い樹苑《じゅえん》を通って城影《じょうえい》の下に来た時、空には厚雲《あつぐも》がかぶさり、大気は湿っぽく雷鳴が催していた。緑ばんだ金色の夕映《ゆうばえ》の名残を背景にして黒い人間の姿が影絵のように立っているのを彼は見た。妙な絹帽《シルクハット》をかぶった男で肩に大きな鋤《すき》を担いでいる。その取合せが妙にかの寺男《てらおとこ》を思わせた。師父ブラウンはその聾の下男が馬鈴薯を掘るという事をふと思い出して、さてはその訳がと合点したのであった。彼はこの蘇格蘭《スコットランド》の百姓がどうやら解けたと思った。官憲の臨検に対する故意から黒帽《こくぼう》をかぶらなければならんと考えたのであろう心持《こころもち》も読める、――
 そうかと言ってそのため馬鈴薯掘りは一時間たりとも休もうとはしない倹約心《けんやくしん》も解った。坊さんが通りかかると吃驚《びっくり》して迂散臭《うさんくさ》そうな眼付をしたのもこうした型の人間に通有な油断のない周当さを裏書するものである。正面の大戸がフランボー自身によって開かれた。側には鉄灰色《てっかいしょく》の頭髪をした痩せぎすな男が、紙片《かみ
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