てしまったんじゃ。庭は輝くが如くに見え、草は光をまし行く陽光の中《うち》にいっそう楽しげに見えたのじゃ」
 この気狂《きちがい》のような真理を話した時フランボーは巻煙草に火を点けた。
「そして取去られたんじゃ」と師父ブラウンが語をついだ。
「取去られたんであって、盗み去られたんではない。いつかな、盗賊の仕業なら、こうした謎を残しては行かない、盗賊は純金製の※[#「鼻+(嗅−口)」、第4水準2−94−73]煙草|函《ばこ》を盗めば中味の煙草も何も皆《み》んな持って行く。金の鉛筆鞘にしても中の心《しん》も何も皆な持って行く」
「そこで吾々は一個の奇妙な良心を、確かに良心に相違ない、持つ男を論じなくてはならんのじゃ。わしはその狂人のような律儀者を今朝向うの野菜畑で発見した。そして一語一什の物語りを聴いたのじゃ」
「故アーキポールド・オージルビー伯爵はかつてこのグレンジール城に生れた人の中では珍らしい美男であった。しかし彼の俊厳な徳は遂に彼を人間嫌いに変じた。彼はこの城の先祖の不正直なことを知って怏々《おうおう》として楽しまなかった、それから幾分彼は一般に人間というものは不正直なものであると思
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