がない」と叫んだ。
 クレーヴンもフランボーもしばらくは棒立に立ちすくんでいたが、この時初めて、一大事といわぬばかりに、びっくりして飛上がった。
「何、首がない、へー、首がない」坊さんは元より欠けているものがあるにしても、まさか首ではないだろうと思っていたのに、と云うような意外な調子でこう繰り返した。
 たちまち一同の頭には、クレンジール城に首無児《くびなしご》の生れた、もしくは、首無少年が城中に人目を避けている。あるいはまた、首無の大人が城中の昔造りの広間や華麗な庭園内を濶歩しつつある馬鹿らしい光景がパノラマのように過ぎ去った。しかし肝心の眼の前の問題については何の名案も頭には浮んで来ず、また首無の理由があるのやらないのやらさえ考える事が出来なかった。一同はまったくポカン、とした面持で疲れはてた馬か何かの様に、嵐の音や松林のざわめきに、ただ聞きいるばかりであった。
 考えるにも考える事が出来なかった。とその時、静かにブラウンが話しだした。
「ここに三人の首無男が発掘された墓をかこんで立っておりますな」とブラウンが云った。青くなった倫敦《ロンドン》探偵は何か物を云おうとして田舎者のよう
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