なりうるが、この書物をこんな具合に瑕物《きずもの》にしておった理由はただ一つしかない。これ等の宗教画がこの通り汚され、引裂かれ、落書《らくがき》さえされてあるのは、子供の悪戯や新教徒の頑迷からした仕事ではない。これはすこぶる念入りにやった仕事です。またすこぶる不可能なやり方です。神の御名《みな》を金文字で大きく書いてある部分は残らず叮嚀に切取ってある。その外《ほか》にこの手をくっている箇所は嬰児|基督《キリスト》の御頭《みあたま》を飾る御光《ごこう》である。じゃによってわし等はこれから直ちに令状と鋤と手斧をたずさえて山へ登った上、棺《かん》を発掘しようかとこう云うんです」
「ハア、とおっしゃると、どういう意味ですか」倫敦《ロンドン》の探偵がたたみかけるように訊いた。
「と云う意味は」と小さい坊さんの答える声は嵐の咆《ほ》え狂う中にもちょっと大きくなったかと思われた。「と云う意味は宇宙の巨大なる悪魔が、今この瞬間、この城の大塔の頂上に、百の衆を集めた様にふくれ、黙示録のそれのように咆哮しつつ[#底本では「つ」が重複]あろうやもしれないというんです。この切抜事件の底にはどこやらに悪魔の魔法
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