はり昔風の王制の讃美者であった。そこでルイ王朝の家庭生活を文字通りに今の社会に再現させようと試みた。彼が嗅煙草を持っとったのは嗅煙草なるものが彼の御気に入りである拾八世紀の奢侈品《しゃしひん》であったからじゃ。蝋燭は拾八世紀の燈明であったからじゃ、銅鉄製の豆機械というのは、ルイ十六世の錠前道楽を象《かたど》ったものじゃ。ダイヤモンドは有名なマリー・アントワネット(ルイ拾六世紀の皇后)のダイヤモンド頸飾じゃ」
相手の二人は眼を丸くしてブラウンの顔を見入った。
「オー何と云う奇想天外的な推理であろう」とフランボーが叫んだ。「しかし師父あなたは本当にそうと信じておられるのですか」
「いやそうでない事をわしはきつく信じるよ」と師父ブラウンが答えた。「だがあなたがたは何人《なんぴと》といえども嗅煙草とダイヤモンドとぜんまいと蝋燭との関係をよう見破らんとのみ云われるがわしはその関係を一つ出放題に鮮明がしてみたいんでな。事実の真相は、わしはきっと信じるが、もそっと深い所に横たわっているんじゃ」彼はふと言葉をきらして小塔に咽《むせ》び泣く風音に耳を澄まして、それから更に続けた。
「故グレンジール伯は
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