盗賊であった。命知らずの強盗として裏面《りめん》に暗い生活を送っておった。彼は蝋燭を短く切って、小さな角灯《カンテラ》の中に入れて歩いた故に燭台の必要がなかった。嗅煙草は、最も強暴な仏蘭西《フランス》の犯罪者が胡椒を使用した様にこれを使用した。というのは、これを引つかんで捕吏《ほり》もしくは追跡者の面《つら》にいきおいよくパッと投げつけるためにじゃ。最後に、ダイヤモンドと鋼鉄の歯車であるが、これは不思議にも一体をなすものと見える。これで何もかもあなた達はがてんするであろうが、ダイヤモンドと小さな鋼鉄の歯車は盗賊には限らない。どんな人でも硝子を切る時にこれがなくては出来ないという二つの道具であるのじゃ」
松の樹の折枝が嵐にもまれて、二人の背後[#「後」は底本では「御」]の窓框《まどかまち》をバサバサバサとたたいた。強盗の向うを張ったわけでもあるまいに、しかし二人は振向もせず熱心に師父ブラウンの顔を見つめていた。
「ダイヤモンドと小さな歯車、フン」
とクレーヴン探偵が思案に耽《ふけ》るような面持でしきりに繰返した。「しかしそれだけで本当に真の説明になるでしょうか」
「いやわしもそれが真
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