ら消え去った時師父ブラウンがポカンとした顔で言葉を続けた。
「なに、わしはあなたがたが、誰だって嗅煙草と歯車もしくは蝋燭と宝石との関係をもっともらしく説明することはようせんと余り云わるるのでちょっともっともらしい事を云ってみたまでの事じゃ。十把一搦げの似非哲学が宇宙には似つかわしいように、グレンジル城には、十把一搦げの似非推量が似つかわしいといったような訳でな。しかし実はこの城にも実際の説明が無ければならん。時に蒐集品はもう外《ほか》には無いでしょうか」
ク[#「ク」は底本では「グ」]レーヴンは吹き出した。フランボーもニヤリと笑いながら立上って、長い卓子《テーブル》の端の方へのそのそと歩いて行った。
「第五項、第六項、第七項と控えてはいるが、掘出すとかえって蜂の巣をつついた様になります」とフランボーが答えた。「第一に鉛筆|心《しん》が山のようにあります。これは心だけで鞘がない。それからブッキラ棒な竹の杖が一本、これは頭の金具が剥取ってあります。兇行用の道具としては役立ち得る代物だが別段犯罪らしいものもない。外《ほか》にはまあ古ぼけた弥撤《みさ》の祈祷書が二、三冊と小さな旧教の画《え》が何枚かあります。察するにこれ等はこのオージルビー家に中世時代から伝わっているものと私は思う。が、妙にところどころ切り抜いてあったり、顔なぞもえらい事になっているので、これは博物館へでも廻したい代物です」
外では猛烈な嵐が城をかすめて物凄い千切雲《ちぎれぐも》を吹飛ばした。そしてこの細長い空の中に闇を投げ込んだ。その時師父ブラウンは、その小さな本を手にとって燦爛《さんらん》と光るその頁《ページ》をしらべ始めた。やがて彼は口を開いた。闇の影はまだ立迷っている。しかし彼の声はまるで生れ変って来た様な声であった。
「クレーヴンさん」と云った声は十歳も若く聞えた。「あなたはあの山上の墓を発掘すべき正式の、令状をたしかに御持ちでしょうね。善は急げだ。急げばそれだけこの恐るべき事件の底も早くたたいて見られると云うものです。もしわしがあなたであったらすぐさま出立《しゅったつ》致しますがね」
「これからすぐ、えエどうしてすぐでなければいけないんです」探偵は驚いて訊ねた。
「さあなぜというと、これはなかなか重大問題ですからじゃ、嗅煙草の散らばっている事や宝石の抜き取ってある事に対しては百の理由も想像も
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