、こりゃ怪しい、ハッハ……』とルパンは笑い出した。
『まったく、をかしいんですよ』とメルジイ夫人は苦々しげに『この間にも、ドーブレクの方では早くも活動を開始しまして、最初の目的へ進みました。窃《ぬす》み出してから八日目に議院に夫を尋ねて参りまして、二十四時間以内に三万|法《フラン》の金を出せ。出さなければあれを発表して社会から葬ってやると脅迫しました。あの人間を知っている夫《たく》は、出さねばどんな事をされるか解らない、と云って金の調達は早々《はやばや》に出来ず、つい思案に余ってあの通り自殺致しました。……ですから、あの連判状を種に脅迫された方々は金を出すか、自殺するより外《ほか》に途《みち》がないのです』
『フーム、実に悪辣な野郎だ』
 しばく沈黙している間に、ルパンは兇悪無残なドーブレクの生活を考えてみた。彼が一度連判状を握るや、これを材料《たね》にして盛《さかん》に暗《やみ》から暗へ辛辣な手を延ばして、大金を強請《ゆす》り取り、ついには閣員を脅迫して代議士になりすまし、当路の大官、醜代議士連の弱点を押えては私利私欲を恣《ほしいまま》にしているが、当事者もこの一個の怪物をいかんとも
前へ 次へ
全137ページ中94ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ルブラン モーリス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング