つ》の金庫内に保管してあるから、自分の死後取り出してくれと申したのでございます。ジェルミノールさんの邸は直ちに警官で厳重に警戒し、総監は病床に付き切りでしたが、ジェルミノールさんが、死なれたので、金庫を開けて見ると、中は空虚《から》……』
『今度はドーブレクですな?』
『ええ、ドーブレクです』とメルジイ夫人の感情は次第に興奮して来た。『アレキシス・ドーブレクは、どうしてあの有名な書類がジエルミノーの手にある事を知ったか存じませんが、とにかく六ヶ月|前《ぜん》から巧みに変装して、ジエルミノーの書記に住み込み、あの方の死ぬ前の晩、金庫を破壊して窃《ぬす》み取ったのです。調査の結果、それがドーブレクの所業《しわざ》である事が解りました』
『だが、捕縛しないじゃありませんか?』
『でも仕様がありませんもの。ドーブレクはすぐにそれを安全な所へ匿《かく》してしまったでしょうし、それに捕縛など仕ようものならば、あの醜穢《きたな》い問題がまたまた火の手を揚げて、暗《くらやみ》の恥をあかるみへ出す様なものですからね』
『フム、なるほど?』
『そこで、ドーブレクと妥協をしたのです』
『エ、ドーブレクと妥協
前へ 次へ
全137ページ中93ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ルブラン モーリス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング