河事件に醜関係のある事が暴露致しまして、その時初めて、気付きますと、同僚の者が皆会社から買収され、各党の領袖《りょうしゅ》や、有力な閣員をはじめ収賄議員の名前が、秘密の連判状に乗っていると云う評判が立ちました。私どもは非常に心配致しました。その連判状が公表されはしないか、名前が世間に出はしないかとホンとに命も縮む様でございました。あなたも御承知の通り、議会は非常な騒動で、議員達も戦々兢々《せんせんきょうきょう》と云う有様でした。誰れがその連判状をもっているかは、少しも解りません。とにかく連判状があると云う事だけは確かでした。世間から睨まれた二人、その二人は嵐の中《うち》に葬られてしまいましたが、さて、誰れの手にその連判状が握られているかはとうとう分らずにしまいました。』
『ドーブレクですか?』とルパンが云った。
『いいえ。ドーブレクはその頃は名も知られない男で、まだ舞台へは現れて参りません。ところが、意外にも突然連判状の所在が知れました、と云うのは自殺した運河会社社長の従弟《いとこ》であるジェルミノーさんが肺病で死ぬる間際に、警視総監に手紙を途《おく》って、実はあの連判状は自分の室《し
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