日を送っていました。それにもまして悲しい事が良人《おっと》の政治関係で嵐の様に起って参りました』
『何んです、それは?』
『一語申上げれば御解りでしょうが、二十七人連判状の件です』
『アッ、そうですか!』
ルパンが眼前に閉された垂帳《カアテン》は豁然《かつぜん》として開かれた。彼が今日まで黒暗々裡に、暗中模索に捕われていた迷宮に、忽焉《こつえん》として一道の光明が現れたのを覚えた。
クラリス・メルジイは確《しっ》かりした口調でなお語り続ける。
『ええ、名前が載っているとは申しますものの、過失《あやまち》と云うよりは、不幸でしたのでしょう、つい犠牲になってしまったのです。当時メルジイは両海運河工事調査委員を致しておりました所から、会社の計画に賛成する者と一緒になってその方《かた》の投票を致しました。ええ、受取りました。確《たしか》に十五万|法《フラン》の金を会社から受取りました。しかしその金はある親密な政友の懐に入ってしまって、その政友の道具に使われたに過ぎないのでした。夫は少しもやましい所がないと信じていたのが大間違いでして、まもなく運河会社社長の自殺、会計課長の行方不明の事から運
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