は言葉に力をこめて、
『いやあなたはまだ私を了解していない。もし私を了解しているならば、私に対して疑《うたがい》を挟《さしはさ》む事が出来ないはずだ。あの二人の部下、いや少なくともジルベール……ボーシュレーは悪漢ですから別としても……だけはあの恐ろしい運命から救ってやらねばならないのです……』
婦人はこの時狂気のごとく、やにわに彼の両肩に獅噛《しが》み付《つ》いた。
『エ? 何を仰います? 恐ろしい運命?……あなたはそう御考えになりますか、あなたは真実《ほんとう》に……』
『真実です』と彼は明確に答えた。ルパンはこの一言《いちごん》がいかに彼女を狼狽《ろうばい》させたかを知った。『それはジルベールから来た手紙で明かです。彼《あれ》は私だけを頼りにしています。自分を救い出すものは私より外《ほか》にいないと信じています。この手紙です』
婦人は手紙を奪う様にして読んだ。
『助けて下さい、首領《かしら》……駄目です……私は恐ろしい……助けて下さい……』
彼女はバッタリ手紙を落とした。手をぶるぶる慄《ふる》わせ、血走った両眼を見開いて、恐ろしい幻影を見詰める様であった。が、それも一瞬、彼女
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