てソッと外の様子を覗《うかが》った。二人の男が人道をぶら付いている。グロニャールとルバリュだ。
『俺の邸の前で面《おも》を隠さないとは図々しい野郎どもだ。だが面白くなって来たぞ、奴等もこの首領《かしら》に従わんければ何も出来ない事を今こそ覚《さと》ったんだろう。この上は灰色の髪の婦人と対談だ!』
 母子《おやこ》は互に手を執りかわし、母親は心配の余り、眼に涙を一杯ためていた。しかしルパンがしたと同じく、子供のジャケツに手を差し入れて、目的物があるかないか捜していたが、無邪気な子供が、
『無かったのよ、母様、本統に無かったのよ』というと、彼女はわが子をしっかと、両腕に抱きしめた。子供は昨夜来の疲れと恐怖でまもなくスヤスヤと眠ってしまった。母親も、はなはだしく気疲れがしたと見えて、子供の上に頭を下げたままウットリとしていた。ルパンはその様子をジッと眺めた。美しい中にもどこかに気品のある容貌、それにいささかの面窶《おもやつ》れが見えて、人をして思わず深い同情愛憐の心を起さしめる。
 ルパンは我知らず婦人に近づいて、
『私は、あなたが何を計画していられるか知らないが、しかしいずれにしても、有力
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