から子供をおろして、やさしく頭を撫でてやった。子供は寒さにこごえていた。無理に恐怖をかくし、泣きたいのを我慢して、六《むつ》かしい顔をしているのもなかなかにいじらしい。
しかしルパンのやさしい声、その慈愛の籠った態度に安心してか、子供もだんだんと優しい無邪気な顔になって来た。しかもその顔は彼がかつて見た何者かの顔に似ている様な感じがする。……と同時に、彼は何だか形勢がたちまちここに一変して、この事件は今や根本から解決され得るような気もせられた。この時、玄関の呼鈴《ベル》が不意に消魂《けたたま》しく鳴った。ルパンはそれを聞くと、
『さあ、お母様が迎えに来たよ。じっとしておいでよ』
と云いすてて彼は走って行って戸を開けた。するとそこへ気狂《きちがい》いの様になった一人の婦人が、
『子供は? ……子供はどこに?……居ます?』と叫びながら駈け込んで来た。
『私の室に居るのだ』とルパンが云った。すると女は邸内の様子はちゃんと心得ているもののごとく、そのままルパンの室へ走って行った。
『灰色の髪の婦人だ』とルパンが呟いた。
『ドーブレクの友にして敵だ。俺の想像した通りだワイ』
彼は窓へ近づい
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