『誰って事はないんです……二月《ふたつき》ばかり前《めえ》から二人で相談してたんです』
『だがな。おれはあのボーシュレーて奴は信用出来ないんだ……あいつはどうも性質《たち》が悪い……腹黒な野郎だ……なぜおれは早くあいつを追い出してしまわなかったかと思っておるくらいなんだ。どうもあの野郎は気に入らねえ。危険人物だ。しかし確実にドーブレク代議士の出て行くのを見たんだな?』
『現在この眼で見たんでさあ』
『巴里《パリー》へ誰に会いに行ったか知ってるか?』
『芝居へ行ったんです』
『フム。だが召使どもが残っておるはずだが……』
『飯焚女《めしたきおんな》は帰ってしまいましたし、ドーブレク代議士が信用してるレオナールて男は、主人を迎えかたがた巴里《パリー》へ行きましたから、一時を過ぎなきゃ、大丈夫《でえじょうぶ》帰《けえ》って来ません』
『それで襲うたのは、あの公演に囲繞《かこ》まれておる別荘か?』
『そうです、マリーテレーズ別荘ってんです。それに庭続きの両側の別荘ですね。あれが五六日前から明いておるんですから、全くこちとらにはお誂向きでさあね』
『フム、余り簡単過ぎる仕事で、興味がないな』

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