ルパル」]は運転台に居《お》る運転手に向って、
『ここに居ちゃ拙《まず》い、正九時半にまたここへ来い、ドジさえふまにゃ荷物が積めるから…………』
『ドジだなんて縁起でもねえじゃありませんか?』とジルベールが不平だ。自動車はいずこともなく引返して行った。ルパンは二人を連れて湖水の方へ歩きながら、
『だってさ、今夜の仕事はおれの目論んだ事じゃあないからなあ。おれが自分で目論んだ事でなきゃ半分しか信用《あて》にしないんだ』
『冗談でしょう、首領《かしら》、わっしだって親方の御世話になってから三年になりますもの……ちったあ手心も解って来てますよ……』
『そりゃ、解っておるだろうさ。それだけになお心配なんだ……さあ乗り込んだ……ボーシュレーは、そっちへ乗れ……よし……出した……出来るだけ静粛《しずか》に漕ぐんだぞ』
 グロニャールとルバリュの二人はカジノの少し左手《ゆんで》に当る向う岸に向って一直線に漕ぎ出した。途中で一隻のボートに会った。しばらくするとルパンはジルベールの傍《そば》へ寄って低声で、
『オイ、ジルベール。此夜《こんや》の仕事を計画したなあお前《めえ》か、それともボーシュレーか?』
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