ャール……ルバリュ……居《お》るか?』
 声に応じて両方の端艇《ボート》の中からヌッと現れた男、
『ヘエ、居りやす』
『用意をしろ。自動車の音がする。ジルベールとボーシュレーが帰って来たぞ』
 云い捨てて彼は庭園に戻り、新築中と見えてまだ足場のかかっておる家を一廻りして、サンチュール街に向いた門の扉《ドア》をそっと押せば、怪物の眼の様な前灯《ヘッドライト》がサッと流れて、巨大な自動車がピタリと止った。中から外套の襟を立て、帽子を真深に冠《かぶ》った二人の男が飛び出した。果してジルベールとボーシュレーとであった。ジルベールは二十一二の温和《おとなし》そうな容貌、見るからに華奢な、そして活気のある青年であったが、ボーシュレーの方は丈の短い、髪毛《かみげ》のちぢれた、蒼い顔に凄みのある男であった。
『オイ、どうした。代議士は?……』とルパンが尋ねた。
『ヘエ、見込通りに、七時四十分の汽車で巴里《パリー》へ出発《た》ったのを見届けました』とジルベールが答えた。
『じゃあ、思う存分仕事が出来るな』
『そうです。マリー・テレーズの別荘はこちとらの自由勝手でさあ』
 ルパン[#「ルパン」は底本では「
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