。じゃ、暫時御待ちを願たい。二十七人連判状については、一時間、いや二時間以内に私が再びここへ参りまして、御相談致しましょう』と命令的に云った。そして夫人の手を取って引摺る様にしてほとんど駈足でフイと室外へ去ってしまった。ブラスビイユはしばらく唖然として呆気にとられていた。ニコルと云う家庭教師、下らぬ男とばかり思っていたが、今日計らずもその仮面を脱ぎかけた処からサッするに、明察果断しかも気鋒俊英の大才物だ。なかなか普通の人間では無さそうだ。はて何者だろうか……プラスビイユはブルッと戦慄した。きゃつだ!
彼は廊下へ飛び出すと、刑事課長に会った。
『君、今女連れの男を見たろう? すぐ五六名を連れて追駈けてくれ。それからニコルと云う奴の家を監視して、すぐ捕縛しろ、これが逮捕状だ……』
『でも……おや、捕縛するのはニコルでしょう? ですが、これにはアルセーヌ・ルパン……』
『アルセーヌ・ルパンもニコルも同一人間だ……』
翌日、ニコルは再び飄然とプラスビイユを訪れた。
『実にどうも大胆不敵、図々敷い野郎だ』とプラスビイユは呟いた。
ニコル文学士は不相変《あいかわらず》例の洋傘《こうもり》や汚
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