これですなあ!』
 と見ていたが、やがて拡大鏡を出して、窓硝子へ透かして熱心に調査をした結果、
『クラリスさん、これは御返しします。……偽物です……』
『エッ、偽物? え、そんな……』
『ええ、棄てるとも焼き棄てるとも勝手になさい……実は連判状の用紙ですが、肉眼では見えませんが、透かして見ると紙の中に十字のマークが打ってあるのです。ところがこれにはそれが無いのです……』
 聞いたメルジイ夫人の顔色はみるみる物凄く蒼ざめて来た。驚いたのはルパンのニコルである。のみならず狂乱に近くなった彼女は取り止めのない言葉を口走ると共に肌身離さぬ短剣をスラリと引き抜いて我れと我が咽喉《のど》に擬した。
『アッ、危い! 何をするッ!』とニコルは電光の如く短剣を奪った。
『あなたはジルベールをきっと救うと誓った私の言葉をお忘れですか?……ジルベールのために生きなさい。私が附いている以上きっとジルベールの死刑は執行させません……きっとです、きっとジルベールは殺さしませんッ』そう云って彼はブラスビイユに向い、
『では、閣下、真の連判状さえ手に入ればきっと二人の生命は赦[#「赦」は底本では「赧」]してくれますね
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