い古帽子や手袋などを抱えて応接室に待っていた。
『ええ、昨日御約束致しました件について御伺い致しました。思いがけなく手間取りまして、何とも申訳がございません』
『いかがです、昨日のお言葉通り真物《ほんもの》が手に入りましたか?』
『ハア、実はドーブレクは巴里《パリー》に居りませんでして、自動車で巴里《パリー》へ参る途中でございました』
『君は自動車を持っているかね?』
『ええ、旧式のボロボロ自動車でございます。でドーブレクを自動車に乗せまして、と申しても実は、旅行鞄《トランク》の中へ押入れまして、自動車の屋根の上へ乗せて、巴里《パリー》へ参る途中でした。が、つい機械に故障がございましたために手間取った様な次第でございます』
 プラスビイユは驚愕の顔でニコルを眺めた。人相を見ただけではどうしてもそれとは想像も付かないが、その談り出した行動、ドーブレク誘拐手段は――咄《とつ》!怪物!人間をトランクに詰めて、しかも自動車の屋根で運搬するなどと云う離れ業は、ルパンならでは出来ない事だ。しかもそれを他人の前で平然として事もなげに云ってのける者もまた、ルパンならではできない。さては奴、いよいよただ
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