る目を開いた。と意外、意外。ドーブレクは極度の恐怖に襲われたものの如く、その眼は二重瞼の底から異様の光を見せて夫人の肩の辺を凝視している様だ。
 クラリスは振り返った。と可驚《おどろくべし》、ヌッと現れた拳銃《ピストル》二挺。……自分の椅子の背後から、黒い口を開いてドーブレクの腹の辺をピタリと狙っている。ドーブレクの恐怖の顔色は次第に蒼ざめて来た。と見る椅子の影から一人の壮漢が飛鳥の如く躍り出すや否や、片手を代議士の頸にかけて、ガタリと床の上に叩き付けると同時に、綿のようなものをその顔に押し当てた。とプンとクロロホルムの臭気が室内に漂う。クラリスはニコル氏の姿を認めた。
『オイ、グロニャール!オイ、ルバリュー!拳銃を離せ、どうやら脆くも参ったらしい……さあ縛り上げろ!』
 さすがの猛悪野獣の如きドーブレクも頽然《ぐたり》と横わっている。グロニャールとルバリュとはたちまち毛布でグルグル巻きにして、その上を細縄で雁字搦《がんじがらめ》に縛り上げてしまった。
『占め占め、占め子の兎だ……』とルパンは驚喜して雀躍した。彼は盛《さかん》に躍り上りながらドーブレクのパイプを口に啣《くわ》えて、

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