淫の口辺に洩しながら突立っていた。彼女の身体は谷《きわ》まった。しかもルパンは来ぬ。否行方すら解らない。
ドーブレクは悠々として驚くクラリスを尻目にかけつつ、彼の計画を語った。彼は反対にクラリスを尾行していたのであった。しかも部下を使ってルパン等に偽手紙と偽口伝をを残さしたのであった。兇悪奸譎な代議士のためにルパンは不知の境に徘徊させられているのだ。あわれ夫人、彼女は孤立無援、しかも恐るべき悪魔の手に陥ってしまったのだ。
常勝将軍をもって誇る彼アルセーヌ・ルパン今は惨憺たる敗北また敗北、敵のために思うがままに翻弄され尽して、しかもそれを自覚せず、今頃はどこの空に、クラリスの跡を尋ねているのだろうか。
薄命の夫人が悲惨な運命の最後は来た。不倶戴天の仇敵の前に、今は最後の膝を屈しなければならなかったのだ。ドーブレクは次第に迫って来る。今は絶体絶命! もはや抵抗する力も失せてただ死――観念の眼を閉じた。
『ああ、ジルベール……ジルベール……』と口の中で呟いた。
と不思議! 迫り来べき敵は一歩も進まなくなった。五秒……十秒……二十秒……ドーブレクは動こうともしない。
クラリスは恐る恐
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