あるから、それに乗るんだよ、大急ぎ大急ぎ……』
 彼はベルタ医学博士と名乗ってドーブレクに会い、メルジー夫人の自殺を計った次第を述べた。さすがの代議士もいささか驚いた気味であったが、何事か考えていた。
『何にしろ、夫人が熱のために夢中になって「あの人です、あの人です、……ドーブレク……代議士です……子供を返して下さい……あの人にそう云って下さい……さもなければ私は生きていません……」と申しますので、とにかく、一応あなたに御伺いしたら解ることと思って参りました』
 代議士は長い間沈黙していたが、突然、「ちょっと失礼します」と云って電話機を取り上げた。
『モシモシ……モシモシ八二二・一九番……』
 ルパンは微笑した。
『モシモシ、警視庁?……ええ官房主事のプラスビイユさんに願ます……私?私はドーブレク、代議士のドーブレクです……やあプラスビイユ君か?……え、なんだい、驚いたって?……ああ、全くだ、長い間御無沙汰したね……だがお互に心の中じゃ始終忘れっこなしさ……それに君や、君の部下の連中がたびたび留守中に訪ねて来てくれたってね……モシモシ、え? 忙しい?、……俺も忙しいよ。……ところで、だ
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