。君のためになる事件が起ったんだ……まあ、待てよ、馬鹿……待ってってば……馬鹿……君の手柄になろうてんだよ……モシモシ聞いているかい?……君の部下を五六名大至急派遣するんだ……自動車で……君のために無類の獲物を掘り出してやったよ……ウン、殿様ナポレオン一世……一言で云えばアルセーヌ・ルパンよ』
 ルパンはアッと驚いた。相当の覚悟はして来たものの、よもや、プラスビイユを呼び出そうとは思わなかったが、しかしこれくらいのことでビクともする男じゃない、彼は呵々《からから》と笑った。
『よううまいうまい!』
 代議士は邸内にビクトワールも居ると云った。シャートーブリヤン街で、ミシェル・ボーモンと偽名している事も云った。
『どうだい。ルパン。手取り早い話じゃないか。これで我々の立場が明白になったぞ。ルパン対ドーブレク。この一勝負だ。ところで警官隊が来るまでには三十分しかないぞ! 足元の明るい内に尻尾を捲いて退却したらどうだい、アッハハハハ』
 彼はあらゆる言葉を尽して、滔々と毒付いた。可驚《おどろくべし》、何事も知るまいと思いきや、彼はメルジイの愛児ジャックの忍び込みからメルジイ夫人との同盟、ビク
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