ールは大層、あなたを怨んで、仕事を奪ったばかりでなく、部下を見殺しにするとは余りだと書いてございましたので私も半信半疑の心持になって、とうとう逃げ出してしまいました……』
その後彼女がジルベールを救出すには最後にただ一ツの方法しか遺らなかったのである。彼女はドーブレクが執念、蛇の如き欲求を入れなければならないのだ、その欲求を入れれば……ジルベールは助かる。しかし、夫の仇、倶に天を戴き得ない深讐綿々たる怨の敵……とは云え、繊弱《かよわ》い女の身として、一ツには我児の愛に惹かされて、今後あるいは身を殺して仇のために左右せられんともかぎらない。……思えば呪の運命に弄れた不幸な彼女、その愁《うれい》に沈む夫人の心情、人として何人かこれを目前に見て看過し得よう。いわんや侠気自ら許すルパンである。彼の眼底に同情の涙が湧くと同時に、その眼光に、正義の光が物凄く輝き出した。
『よくお聴きなさい。私はあなたに誓ってジルベールを救います……私はあなたに誓う……ジルベールは決して殺させない!解りましたか……この私の眼の黒い間は、天下いかなる権力者たりとも、断じてジルベールの頭に指一本でも触れさせません……
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