ョン・ハワード商会に註文した時、見本として送って来た品に過ぎないのでございます。』
もしこの時、夫人の深刻な悲痛の顔が、彼の眼の前になかったならば、ルパンは、この運命の悪戯による痛烈な皮肉に対して哄笑を禁じ得なかったであろう。
彼女はハワード商会に手を入れて、栓の突端に微かな傷のあるのが見本だと云う事まで取調べていた。そして、見本の栓を奪う事によって、ドーブレクのために目的を感付かれては万事休するので、ジャックを使ってドーブレクの手元へ人知れず隠したのであった。
ルパンが出現してドーブレクの邸内に潜み出してから、彼女の活動はルパンが怖ろしくて手も足も出せなくなった。そのために例の手紙や、また劇場に来てはならないなどと云う電報をも打ったのであった。のみならず彼女は一度彼を訪問した。そして一切を打開けてその助力を乞おうとした。しかし……
『しかし、あの時にはジルベールの手紙を横取せましたね。だがジャック君ではなかったはずですが……フム、自動車の中に待たしてあったのを、窓から引き入れた?……そうでしょう、そうでもしなければあの手紙が奪れる訳ではないですから、で手紙の内容は?』
『ジルベ
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