二本の流木があるだけで、それをたいせつに使わなければならないからだ。
 もう蒸溜水には、心残りのないように、かまどを、きれいさっぱり、くずしてしまった。これで一同は、しおけのある井戸水ばかりを飲むことになった。
 雨の降ったとき、雨水をためて飲むことは、もちろん工夫した。天幕《テント》の下の方を折りまげて、屋根に降った雨水が、石油の空缶《あきかん》に、流れこむようにした。そして、それから後、たびたび雨が降って、雨水をためることができた。
 雨水をためる工夫をする一方、天幕のなかへ、雨水が流れこまないように、天幕のなかいちめんに、砂をもりあげたり、まわりに水を流す溝をほったりして、すまいの天幕も、倉庫の天幕も、一日かかって、雨水よけの工事ができた。
 たきぎは、一日三度の炊事に、なくてはならないものだが、よほど節約しないと、なくなってしまう。
 そこで、たべあとの魚の骨や、かめの甲をあつめて、たきぎのかわりにもやした。大きな正覚坊の甲、一頭分は、一日の炊事に、じゅうぶんまにあった。よくかわかしてわると、油がしみていて、たいそうよくもえた。

 火をつくるマッチは、ほんの少ししかない。五年も十年も、これを使わなければならないから、まず使わずにしまっておくことにした。そして、天気のよい日は、双眼鏡のレンズで、太陽の光線をあつめて、火種をつくった。しかしこれは、くもりの日や、夜はできないから、そんな時には、なにかべつな方法を考えなければならない。
 そこで、流木で、長さ三十センチほどの、へらのようなものをつくり、その一方をとがらせた。そのとがったへらで、一メートルぐらいの長さの太い松材の中央に、十五、六センチぐらいの、くぼんだところをつくって、そこをへらで、力をいれていきおいよく、気ながに、ごしごしこすると、こまかい木の粉がでて、松材はへこんで、こげくさくなる。もっとこすると、すこし煙が出る。そのとき、いっそう強くこすってから、へらの先を、こすれて出た木の粉につきつけると、火がつく。その火を、用意しておいたかれ草の葉、または、索《つな》を毛のようにほぐしたものなどにうつして、いっそう大きな火種をつくった。
「この火種が、いつでも手ぢかにあれば、どんなに、べんりだろう」
 こう考えた漁業長と小笠原《おがさわら》老人は、いいものをこしらえた。それは灯明《とうみょう》だ。
 缶づ
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