かしやしないかと窺ふやうに顏を眺めるのだつた。幾ら待つても彼女は巣から出て來ないので、私はやゝ飽いてしまつた。そして折から誘ひに來た友と一所に表に出ていつてしまつた。
 暫くして、何も彼も忘れて表から家の中に飛び込んで來ると、庭の入口に立つてゐた母が、
『ほれ、こんなにめんげのを生《な》した……』と、手の平に粉を吹くばかりに綺麗な、恰好のよい玉子を載せてゐた。
『ほんと? え? これほんとに家の鷄が生《な》したの?』
 私は奇蹟でも見るやうに、母の手から玉子を奪つて、握つて見たり、頬にあてゝ見たりして騒ぎ廻つた。その玉子は家内中の手から手へ渡り、それから私の友達が遊びに來さへすると、必ず出して見せられたのであつた。
 それからといふもの、彼女は大抵一日おきに産卵した。

『おゝ、いゝ鷄がゐやすなあ、どうです卵を生《な》しやすか? これはもう一羽雌鷄を置くといゝんですがなあ、さうしつと大抵卵をかはりばんこに生しやすからなあ。そのうち一つ在の方さ行つた時に、恰好なのを見つけて來てあげやせう。』と、あるとき紙屑を買ひに來た棒手振が、暫く鶏を眺めてゐたあとで言つた。
 その人の手から買はれたも
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