どうかなつてしまふのであつた。寅年生の者がゐる家には猫が育たないといふ話があるけれど、姉はちようどその寅年生なのであつた。で、猫も駄目なので、犬のかはりに鷄が飼はれたわけであつた。鷄なら玉子を生むからといふのである。
 かうして飼はれるやうになつた鷄が、どこからどうして手に入つたのかなぞは、全然私の記臆にない。私はたゞ珍しくつて嬉しくつて、そして何故ともなく、かすかに得意だつた氣持を覺えてゐる。最初の日は、どこかに行つてしまふのを恐れて、裏庭に出して背負籠をかぶせて置いた。(勿論金網の[#「金網の」は底本では「金綱の」]用意などはなかつたし、作らうともしなかつた。)そしてその前に屈んで、私は飽かず彼等に眺め入つた。
 純粹の矮鷄《ちやぼ》にしては少し形の大きい雄鷄は、玉蟲色に光の陰翳する羽根や、黄金のやうに輝く毛をもつて全身を蔽はれ、形よく盛れ上つた尾は長く地を曳くばかりであつた。そしていかにも若い者のやうな元氣で地を掻きながら、首をかしげて雌鷄に合圖をし、又は絶えず周圍の物音に氣を配つて、きつと重い鷄冠を振りたてた。彼は如何にも男性らしく立派であつた。その立派さに對して雌鷄の無彩色な
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