んでゐる心の底《そこ》に、良心《りやうしん》と貞操《ていさう》とを大切にいたわつているのを、人々は(殊《こと》に男子《だんし》に於《おい》て)見ぬく[#「見ぬく」は底本では「見ねく」]ことが出來ませんでした。
 私達はたゞ/\解放《かいはう》されるのをばかり望《のぞ》んだのではなかつた。何ものかを心にしつかとつかまなければならないのでした。さうしてつかまう/\とする要求《えうきう》が烈《はげ》しくなればなるほど強くなつて來るのは、それに對《たい》する失望《しつばう》の心でした。私達は暗《やみ》の中に手探《てさぐ》りで何かを探し廻《まは》つてゐました。何を探すのかも知《し》らずにたゞ探しました。今になつて思つてみれば、それは生《い》きようとする要求に外《ほか》なりませんでした。
 女《をんな》は弱《よわ》いもの故《ゆゑ》にたやすく失望《しつばう》をし、そしてたやすく自棄《やけ》にもなります。やがて私達にもそれがやつて來ました。殆《ほとん》ど危《あやふ》かつたその時、私達は自ら救《すく》ふために、十|分《ぶん》にその力《ちから》に疑《うたが》ひを殘《のこ》しながらも、愛とその結婚に隱《かく
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