面目《まじめ》にお大切《たいせつ》になさいまし。
あなたにお別《わか》れしてからの電車《でんしや》の中《なか》で、私は今夜《こんや》はじめて乘越《のりこ》しといふ失敗《しつぱい》をしました。晝《ひる》のうち復習《ふくしふ》が出來なかつたものだから、せめて電車の中でゝもと思つて、動詞《どうし》の語尾《ごび》の變化《へんくわ》に夢中《むちう》になつてゐるうちに、いつか水道橋《すゐだうばし》は過《す》ぎてしまひ、ふと氣《き》がついてみると、もうお茶《ちや》の水《みず》まで來てゐるのです。あまりの間拔《まぬ》けさに自分で自分にきまりわるく、すぐ引返《ひつかへ》さうかと思つたけれど、どうせもう後《おく》れたのだから、いつそ文法《ぶんぽふ》の時間《じかん》をすましてからにしようと、そのままぶら/\と電車|通《どほ》りへ歩《ある》き出《だ》しました。
駿河臺《するがだい》の少《すこ》しものさびれたところに、活動《くわつどう》の廣告《くわうこく》の赤《あか》い行燈《あんどん》が、ぽつかりとついてゐたのが妙《めう》に頭《あたま》に殘《のこ》りました[#「ました」は底本では「しまた」]。なんだかそれが
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