としました、今猶|多少《たせう》の渦はこの身邊《しんぺん》を取り圍《かこ》みつゝあるけれども、貧《ひん》と心の惱みとに鍛《きた》へぬかれた今(まだ全《まつた》くはぬけ切らぬけれども)やうやくある落着《おちつ》きが私の心に芽《め》を出しかけました。その芽をはぐゝむものは、私の廣《ひろ》い深い愛でなければならないのです。私はまづ第一《だいいち》に夫《をつと》を愛しなければなりません。けれども情けないほど私の愛はまだ淺《あさ》いものです。私は自分の愛のいと小《ちひ》さく、淺く、狹《せま》いのを、恥《は》ぢ、恐《おそ》れ、嘆《なげ》きます。私の今の苦《くる》しみは、私ん[#「ん」はママ]自分に希《のぞ》んでゐる愛の足《た》りなさを、悲《かな》しむ心に外ならないのです。
また私の胸《むね》に和《やはら》ぎの芽を植《う》ゑそめたものは、一頻《ひとしき》り私の膓《はらわた》を噛《か》み刻《きざ》んでゐたところの苦惱《くなう》が生《う》んだ、ある犧牲的《ぎせいてき》な心でした。その心持《こころもち》は今、私をだん/\と宗教的《しうけうてき》な方面《はうめん》に導《みちび》かうとし、反動《はんどう》の
前へ
次へ
全16ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 仙子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング