るぢやないか。考へてごらん、我々はもうかうしてぐづ/\してられる時ぢやないぢやないか。」
「居られるさあ。」
「居られる?」
「えゝ。」
「ぢや僕がなんにもしないで、このまゝつまらない人間で終つてしまつてもいゝのかい?」
「えゝ。」負け惜しみに、やつぱり躊躇《ちゅうちょ》もなく私はかう答へる。それに、あの人が豪《えら》くならうと、なるまいと、それが私に取つてたゞ一つの問題ではない。あの人の進退が私の運命に大なる影響は及ほしても[#「及ほしても」はママ]絶対は支配はしないであらう。「あの人がなければ私は生きられない。」「あの人によつて私は生きる。」といふことは、何も、たゞ/\もうあの人を頼り切つてるといふ謂ではない。あの人によつて慰められ、あの人によつて力づき、さうしてあの人によつて私の生活は保證されて行く。けれどもあの人の生命《いのち》が私の生命《いのち》ではない。あの人の心が私の心ではない。
「あゝ、それが寂しいんだ!」と、突差に私の心の奥が叫ぶ。
「ぢやもう仕様がない。解つてる/\つていひながら、やつぱりお前にはおれの心が解らないんだ!」
それが、いつも二人の心の別れ目に立つ言葉
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