々しい女だらう!」と呆れかへるやうなあの人の心がひし/\と感じられて、そつと涙ぐましい佗びしい気持になる。それが堪へられないやうに、私があの人に喰ひ入つてしまはなければ此場が過せないやうに、突拍子もなく私はあの人に侵入してゆく。
「ね、サアシヤが可愛いの?」
「あゝ」あの人は厳かな態度を粧はうとする。その口付きから直ぐに、「だが……」と来るのを予覚しながら、私はぢいつとその顔に見入つて居る。
「お前が僕に忠実で、そして……。」
「解つてるわ、/\。」と私は慌てゝその口をとめる。
「ね、後生だからなんの前置もなしに、但し書きをしないで、たゞサアシヤが可愛いつて言つて頂戴!」
 たゞ甘えることだけが、あの人の厳かな構へを破る方法でゝもあるかのやうに、私はひたすらあの人に纏《まつ》はつて行く。
「よう、後生だから。」
「お前が僕と共鳴し、感激しあつて生きて行く限りは……」
「いや、いやあ! 知つてるの、知つてるの。だからたゞなんにも言はないで、サアシヤが可愛いつて言つて!」
 私はたゞもう意地になつて言ひ張る。
「またそんな無茶をいふ……そんなお雛様ごつこのやうな時代はもう通り越してしまつて
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