のがこしらへてみたくなつて、暫く打つちやつて置いた料理の本などを引出して見る。
日は暮れて行く。脂肪の焼ける匂ひや、ものゝ煮こぼれる音や、煙りの中に、私は暫くの間|雑念《ぞうねん》を忘れて立働く。あの人の帰る時刻をなか/\見積りかねて、幾度か時計を見上げては、瓦斯の火を細めたり強めたりして居る、足音が表を過ぎるたびに耳を聳《そばだ》てる。
「猫でも貰はう!」と、ふと思ひついたことが、一つの楽しみになつて、そんなものにでも紛れることが、幾らか私の心に変化を与へるかも知れないと、早くそんなことも話して見たく、あの人の顔を見るまでが堪らなく待遠しくなつて来る。冷めないやうにだの、煮え過ぎないやうになどゝ、細かな加減を気にして居るうちに、いつかいつもの時刻は経つて行く。
と、少しく失望して来る私の心は、容易《たやす》く「えゝつ!」といつたやうな気分を誘ひ出して、折角気をつけて白いのに替へたテーブルクロスに、態《わざ》と汁でも溶《こぼ》してやりたいやうな気になる。その落着かない心持では、本を読むことも出来ないし、外の仕事は猶更手につかない。たゞいら/\した心持で、外の足音にばかり気を奪《と》
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