格子戸の開く音と、小聲に一言二言交へる音とが止んで、鳴皮の踏みしめる音がかすかに錯綜してゐるのも止むと、
『お免下さい。』と、しつかりした聲が訪ふ。
細君はしづかに手をついて玄關の障子を開けた。六つの眼の注視を受けて三枚の大形の名刺を手に取ると、細君はすぐにこの間中の事が頭に浮んではつとした。それには三枚とも辯護士の肩書が威すやうに活字に編まれてゐた。
始終を見て取るやうに立ちはだかつた辯護士達の目に、やせ形の色の白い、新婚後まだ間もないらしい二十二三ばかりの細君の顏が、やがてとりすましたやうに整つて行つた。
『その何です、吾々は○○の辯護士會から、少し取り調べたいことがあつて上つたのですが、それは御當家の先だつての盜難に關してますので、甚だ御迷惑でせうが……』と、一人が口を切ると、細君は皆まで言はせず引き取つて、
『はあ、まあ、左樣でございましたか。さあどうぞあの、むさくるしいところでございますが、どうぞこちらへ……』
『いえ、奧さん。長い時間も要しませんからこちらで澤山です。』と、寧ろ拒絶するやうに一人は引き受けて、『そこで……』
『でも、そこではあんまりなんでございますから…
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