も、感じやすい心と共に殘るものゝ方がどんなにか強く生々しいことでせう[#「でせう」は底本では「でぜう」]、あなたはようくそれを知つてゐらつしやるのですね。私は覺えてゐます、あの時のあなたのあの激しい嗚咽を……それはもう、まだついこの間のやうだけれど、もう三年にもなりますね[#「三年にもなりますね」は底本では「三年になもりますね」]。
 弘一さんの靜な髏を納めた寢棺で、燒場へと行くためにあの鎌倉の家の門を出たのは、氣の短い冬の日が、一秒の猶豫もなしにさつさと暮れていつた頃で、世話人の振り翳す提燈の火影で漸く、人々の顏がそれと分るやうな時でした。ぎしぎしと重々しい、けれども寂しい音をたてゝ、白木の棺は私の俥の脇をすれずれに通つて先の方へ行きました。幾臺もの俥が置かれた順序なりにそれに續かうとすると、『どうぞ御縁の近い方からお先に願ひます、御縁の近いお方は前の方にいらして下さい。』と葬儀屋の男が呼んでゐるので、俥は暫く車上の人の指圖のまゝに入り亂れました。亡き人の妻の從妹としての私は、血筋をひいたと思はれる人々の後に遠慮深く俥を入れさせて、しづしづと動いて行く行列に續きました。振り返つても見
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