ある……)
二
[#天から2字下げ]あたゝかうわれを見おきて雪風のあとさびしらに去《い》にし君はも。
寂しさはいつもあの人の後姿に殘る。そのマントの肩といはず裾といはずに、雪は亂れ亂れてあとを追うたであらう。見送る事も叶はなくて、いつぱいに開いた瞳を硝子戸に置いてゐると、雪は狂ふやうに降りしきつてゐたつけ、その日は早くも先へ先へと流れていつてしまつた。
今夜は、いつもあの人が見えて歸つた後暫くの、寂しいおちつきの氣持のうちにゐる。病氣以來の並並ならぬいたはりを思ふにつけ、我儘ばかりしてゐた昔の苦しい記臆をのみのこして、何の酬ゆるところもなく離れて行かなければならぬのが濟まなく佗しい。けれども考へても考へてもすべては考へきれない、それは考へ盡したも同じ事なのだ。にも拘らず私はやつぱりいろんな事を考へてゐる。それはやがて來る嚴なるものゝ前に、いかに造作なく崩れ去るものであらうとも、いろいろな色に塗られた積木を、弄ぶとは知らずに幼い建築を企てる子供のやうに、私はやつぱりとかくこの胸に不思議なやうな樓閣を築いたりしてゐる。寂しければ寂しいやうに、悲しければ悲しい姿に……
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