あられる人は何よりも幸福です、けれども大抵は皆その胸に一度半度の愛のいたでを受けてゐます、この事はどう思つても寂しい事ではありませんか、悲しきは誰しも遂にその運命に支配さるゝ人間であるよ! せめてはお互に何事をも容しあひ、慰めあうて、更にそこから生れて來る愛の泉でその傷を洗はなくては!
六
私の大ずきな愛する從姉の百合さん、もう左樣ならにしませうね、どうか幸福で送つて下さい、私が死んでもあんまり力を落さないで頂戴。あなたの純な心持をいつまでも失はないやうに祈ります。この手紙を見てしまつたら燒いて下さいね、あなたに打ち明けた私の心持は、あなたの自由を縛らないやうに私自身片つぱしから忘れて行く事にしませう、大きな大きな忘却が來るその前に。
すべては導くものゝ手にあるのだけれど、もしもあなたを眞に幸福にする縁があつたなら、皆樣の安心のためにも再縁なすつた方がよくはないかと思ひます。今更つれない事をいふとお思ひかも知れませんけれど、獨身で過さうといふ事があなたに取つて自然な安易な心持であるならば、寂しいといふ事を不幸のうちだとは思つてゐない私は、その心持を踏み躙つてもお
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