叫んだ聲は、再び私の足をぴくりとさせた。
それは、今の今まで信じてゐたものを※[#「手偏に劣」、第3水準1−84−77、74下9(上中下は本文の段組)]《も》ぎ取られて行く驚愕のきはみであつた。彼は――印半纏の男は、顏色を失《な》くして、爲すべき事を知らぬもののやうに、手をもぢもぢとさせて、こくりと唾を呑んだ。
「どうも、どうしても脈が出ないもんですものね。」
それでも猶もう一度醫員は手を出して、青ざめた赤兒の心臟部のあたりを揉みはじめた。その運動につれて、赤兒の首はぐなりぐなりと搖れて動くのを、看護婦がそつと手で押へた。
それはしかし一二分間、僅な期待をつないだに過ぎなかつた。
「だめだ! お氣の毒だがどうも仕樣がありませんね。」と、きつぱり今度は醫員もほんたうに寢臺の傍を離れた。
「なんとも仕樣がないでせうか?」
「えゝ、何とも仕樣がありませんね、脈があるもんなら注射つてこともありますけれど、連れて來た時には既にもう脈がなかつたんですからね……ただまだ温いだけです。」
さう言つて醫員はさつさと手を洗ひに立つて行つた。
一人の看護婦はその後について行つた。さうして醫員がタオ
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