嘘をつく日
水野仙子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)思の外《ほか》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)今|此地《ここ》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「手偏に劣」、第3水準1−84−77、74下9(上中下は本文の段組)]
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 患者としてはこの病院内で一番の古顏となつたかはりに、私は思の外《ほか》だんだん快《よ》くなつて行つた。
 もう春も近づいた。青い澄んだ空は、それをまじまじと眺めてゐる私に眩《まぶ》しさを教へる。さうしてついとその窓を掠《かす》めて行く何鳥かの羽裏がちらりと光る。私はむくむくと床をぬけ出して、そのぢぢむさい姿を日向《ひなた》に曝《さら》し、人並に、否病めるが故に更により多くの日光を浴びようと端近くにじり出る。或は又新しい心のあぢはひを搜《さが》しに、ぶらりぶらりと長い廊下を傳つて行く。たとへば長い間寢ながら眺めてゐた向側の病室の前を歩いて見る事、または階下に降りて見るたのしみ、幾月かの間あ
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