でたらめを始める。
「出てるのね。」
「何が?」
「あなたの事がよ……」
「えゝ?」
 片つ方の手には黄色い液體を滴《したたら》した試驗管を持ち、片つ方の手のピンセットで試驗紙を挾んだまま、大越さんは全くびつくりして私の顏を見つめる。今年十九の處女らしい血色のいい顏は、見る見るまつ赤になつて、眼の中までが燃え出しさうだつた。
「嘘でせう瀬川さん。」と、何かを哀願するやうな調子であつた。
「いゝえ、まつたくですとも!」
「まあ厭だ! まあ怖い! どんな事が出てるんでせう?」
「いゝえね、一寸投書欄のところに……大體はほめてあるんだけど、一寸ひやかしたやうなところもあるの。」
 驚いたことには、今の今あんなにさつと赤くなつた顏が、私が一寸眼を伏せてゐる間に、まつ青に變つてゐるのであつた。
 それを見ると私はあまりにその處女心《をとめごころ》を亂したのが氣の毒にもなつて、
「何もそんなに心配する程のものぢやないわ、どうせいたづらですもの……まあ今日の××新聞を見て御覽なさいよ、見りやわかるわ!」
 さう言つて私は、今は仕事も手につかなくなつて、宿直室に新聞を見に行かうとする大越さんと廊下を左
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