冷《び》えとする寒《さむ》さは、部屋《へや》の中《なか》の薄闇《うすやみ》に解《と》けあつて、そろ/\と彼女《かのぢよ》を現《うつゝ》な心持《こゝろも》ちに導《みちび》いて行《ゆ》く。ぱつと部屋《へや》があかるくなる。君子《きみこ》は背《せ》のびをして結《むす》ばれた電氣《でんき》の綱《つな》をほどいてゐた。とその時《とき》、母《はゝ》は恰《あたか》もその光《ひか》りに彈《はじ》かれたやうにぱつと起《お》き上《あが》つた。
今《いま》は彼女《かのぢよ》の顏《かほ》に驕《をご》りと得意《とくい》の影《かげ》が消《き》えて、ある不快《ふくわい》な思《おも》ひ出《で》のために苦々《にが/\》しく左《ひだり》の頬《ほゝ》の痙攣《けいれん》を起《おこ》してゐる。彼女《かのぢよ》は起《た》つて行《い》く。さうして甲斐《かひ》/″\しく夕飯《ゆふめし》の支度《したく》を調《とゝの》へてゐる娘《むすめ》をみると、彼女《かのぢよ》の祕密《ひみつ》な悔《くゐ》にまづ胸《むね》をつかれる。
やう/\あきらかな形《かたち》となつて彼女《かのぢよ》に萠《きざ》した不安《ふあん》は、厭《いや》でも應《おう》で
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