ひであつた。彼女《かのぢよ》は今《いま》初《はじ》めて誠《まこと》の悔《くゐ》を味《あぢ》はつたやうな氣《き》がした。さうしてそれは何《なん》といふ恐《おそ》ろしいものであつたらう。[#「あつたらう。」は底本では「あつたらう」]
――彼女《かのぢよ》が勉《つとむ》の成長《せいちやう》を樂《たの》しみ過《すご》した空想《くうさう》は、圖《はか》らずも恐《おそ》ろしい不安《ふあん》を彼女《かのぢよ》の胸《むね》に暴露《あばい》て行《い》つた。無垢《むく》な若者《わかもの》の前《まへ》に洪水《おほみづ》のやうに展《ひら》ける世《よ》の中《なか》は、どんなに甘《あま》い多《おほ》くの誘惑《いうわく》や、美《うつく》しい蠱惑《こわく》に充《み》ちて押《お》し寄《よ》せることだらう! 外《そ》れるな、濁《にご》るな、踏《ふ》み迷《まよ》ふなと、一々|手《て》でも取《と》りたいほどに氣遣《きづか》はれる母心《はゝごゝろ》が、忌《いま》はしい汚點《しみ》の回想《くわいさう》によつて、その口《くち》を縫《ぬ》はれてしまふのである。さうしてそれよりも猶《なほ》彼女《かのぢよ》にとつて恐《おそ》ろしいこと
前へ
次へ
全19ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 仙子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング