《おそ》ろしい絶望《ぜつばう》の夜《よ》を呪《のろ》ひと怒《いか》りに泣《な》きあかした時《とき》、彼女《かのぢよ》はまだ自分《じぶん》を悔《く》ゐてはゐなかつた。たゞ男《をとこ》を怨《うら》んで呪《のろ》ひ、自分《じぶん》を嘲《わら》ひ、自分《じぶん》を憐《あはれ》み、殊《こと》に人《ひと》の物笑《ものわら》ひの的《まと》となる自分《じぶん》を思《おも》つては口惜《くや》しさに堪《た》へられなかつた。彼女《かのぢよ》に若《も》しもその時《とき》子供《こども》がなかつたならば、呪《のろ》ひや果敢《はか》なみや、たゞ世間《せけん》をのみ對象《たいしやう》にして考《かんが》へた汚辱《をじよく》のために、如何《いか》にも簡單《かんたん》に死《し》んでしまつたかも知《し》れない。
 人《ひと》の噂《うは》さと共《とも》に彼女《かのぢよ》の傷《いたで》はだん/\その生々《なま/\》しさを失《うしな》ふことが出來《でき》たけれど、猶《なほ》幾度《いくど》となくその疼《いた》みは復活《ふくくわつ》した。彼女《かのぢよ》は靜《しづ》かに悔《く》ゐることを知《し》つた。それでも猶《なほ》その悔《くゐ》に
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