ふ噂《うは》さも[#「噂《うは》さも」は底本では「噂《うはさ》さも」]あつた。人々《ひと/″\》はたゞ彼女《かのぢよ》も弱《よわ》い女《をんな》であるといふことのために、目《め》を蔽《おほ》ひ耳《みゝ》を掩《おほ》うて彼女《かのぢよ》を許《ゆる》した。けれどもそれは「あの人《ひと》さへも――?」といふ絶望《ぜつぼう》を意味《いみ》してゐた。
二人《ふたり》の關係《くわんけい》の眞相《しんさう》が、どんなものであつたかは誰《たれ》も知《し》らない。恐《おそ》らくは彼女自身《かのぢよじしん》にもわからなかつたことであらう。彼女《かのぢよ》は見事《みごと》に誘惑《いうわく》の甘《あま》い毒氣《どくけ》に盲《めし》ひたのである。
三ヶ|月《げつ》ばかり過《す》ぎると、彼女《かのぢよ》は國許《くにもと》に歸《かへ》つて開業《かいげふ》するといふので、新《あたら》しい若《わか》い夫《をつと》と共《とも》に、この土地《とち》を去《さ》るべくさま/″\な用意《ようい》に取《と》りかゝつた。彼女《かのぢよ》は持《も》つてゐるものを皆《みな》捧《さゝ》げた。いよ/\といふ日《ひ》が來《き》た。荷物《にもつ》といふ荷物《にもつ》は、すつかり送《おく》られた。まづ男《をとこ》が一足《ひとあし》先《さ》きに出發《しゆつぱつ》して先方《せんぱう》の都合《つがふ》を整《とゝの》へ、それから電報《でんぱう》を打《う》つて彼女《かのぢよ》と子供《こども》を招《よ》ぶといふ手筈《てはず》であつた。彼女《かのぢよ》は樂《たのし》んで後《あと》に殘《のこ》つた。さうして新生涯《しんしやうがい》を夢《ゆめ》みながら彼《かれ》からのたよりを待《ま》ち暮《くら》した。一|日《にち》、一|日《にち》と經《た》つて行《ゆ》く。けれどもその後《のち》彼《かれ》からは何《なん》の端書《はがき》一|本《ぽん》の音信《おとづれ》もなかつた。――さうしてそれは永久《えいきう》にさうであつた。
不幸《ふかう》な彼女《かのぢよ》は拭《ぬぐ》ふことの出來《でき》ない汚點《しみ》をその生涯《しやうがい》にとゞめた。さうしてその汚點《しみ》に對《たい》する悔《くゐ》は、彼女《かのぢよ》の是《これ》までを、さうしてまた此先《このさき》をも、かくて彼女《かのぢよ》の一|生《しやう》をいろ/\に綴《つゞ》つて行《ゆ》くであらう。
恐
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