這入っていった。
二
「どこへ参ります! お待ちなさりませ!」
「…………」
「どなたにご用でござります!」
異様な覆面姿の五人を見眺《みなが》めて、宿の婢《おんな》たちがさえぎろうとしたのを、刺客たちは、物をも言わずに、どやどやと土足のまま駈けあがった。
あとから、カラリコロリと下駄を引いて、直人も、のそのそと二階へあがった。
敷地の選定もきまり、兵器廠と一緒に兵学寮《へいがくりょう》創設の案を立てて、その設計図の調製を終った大村はほっとした気持でくつろぎ乍ら、鴨川にのぞんだ裏の座敷へ席をうつして、これから一杯と、最初のその盃《さかずき》を丁度《ちょうど》口へ運びかけていたところだった。
猪《いのしし》のように鼻をふくらまして、小次郎がおどりこむと、先ず大喝《だいかつ》をあびせた。
「藪医者! 直れっ」
しかし、藪医者は藪医者でも、この医者は只の医者ではなかった。彰義隊討伐、会津討伐と、息もつかずに戦火の間を駈けめぐったおそろしく胆《たん》の太い藪医者だった。
「来たのう、なん人じゃ……」
ちらりとふりかえって、呑みかけていた盃を、うまそうにぐびぐび
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