りとして、自分から斬ろうと思い立って斬ったものはなかった。八人が八人とも、みんな人から頼まれて斬ったものばかりだった。
それを今、直人は思い出したのである。
「しょうもない。大村を斬ったら九人目じゃ。アハ……。世の中には全く変な商売があるぞ」
「笑談《じょうだん》じゃない。なにをとぼけたこと言うちょりますか! 手飼いの衛兵は、少ないと言うても三十人はおります。腕はともかく鉄砲という飛道具がありますゆえ、嗅ぎつけられたら油断はなりませぬぞ! すぐに押し入りまするか。それとも待ちまするか」
「せくな。神代直人が斬ろうと狙ったら、もうこっちのものじゃ。そんなに床《とこ》いそぎせんでもええ。――富田《とんだ》の丸公《たまこう》」
「へえ」
「へえとはなんじゃい。今から町人の真似《まね》はまだちっと早いぞ。おまえ、花札でバクチを打ったことがあるか」
「ござりまするが――」
「坊主《ぼうず》の二十を後家《ごけ》ごろしというが知っちょるか」
「一向に――」
「知らんのかよ。人を斬ろうというほどの男が、その位の学問をしておらんようではいかんぞよ。坊主は、檀家《だんか》の後家をたらしこむから、即ち後家
前へ
次へ
全35ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング