次郎のあとを追い乍ら、はるばる五人はその首を狙いに来たのである。
「どうします。隊長。すぐに押し入りますか」
斬らぬうちから、もう血の匂いでもがしているとみえて、鼻のひしゃげた市原小次郎が、ひしゃげたその鼻をくんくんと犬のように鳴らし乍ら、隣りの神代の袖をそっと引いてささやいた。
「奴、晩酌《ばんしゃく》をたのしむくせがありますから、酒の気《け》の廻ったころを見計って襲うのも手でござりまするが、――もう少し容子《ようす》を見まするか」
「左様……」
「左様という返事はありますまい。待つなら、待つ、斬りこむなら斬りこむように早く取り決めませぬと、嗅ぎつけられるかも知れませぬぞ」
「…………」
しかし、神代直人は、どうしたことか返事がなかった。――屋守《やもり》のように塀板へ平《ひら》みついて、じっと首を垂れ乍ら、ころころと足元の小石にいたずらをしていたが、突然クスクスと笑い出したかと思うと、吐き出すように言った。
「変な商売だのう……」
アハハ、と大きく笑った。
同じ刺客は刺客でも、神代直人は不思議な刺客だった。これまで直人が手にかけたのは、実に八人の多数だった。しかし、そのひと
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